伊坂幸太郎『モダンタイムス』

モダンタイムス (Morning NOVELS)

伊坂光太郎は『鴨とアヒルのコインロッカー』のDVDを観てから興味をもった作家。
『鴨とアヒルのコインロッカー』は脚本が秀逸でかなりやられた作品なので違うエントリーで是非紹介したい。


タイトルのモダンタイムスはチャップリンの名作『モダン・タイムス』に由来する。
『モダン・タイムス』で描かれた、自動化・システム化というテーマが本作の根底にある。


物語は22世紀の日本が舞台。
憲法は改正され、青年訓練制度という名のもとに徴兵制がしかれている。


主人公はシステムエンジニア渡辺拓海。彼の妻は夫の浮気をかぎつけ、その浮気を吐かせるため拷問のエキスパートを送ってくるという異常な性格の持ち主。
そんな恐妻家の彼のまわりで特定のワードの組み合わせでネット検索を行った者(上司、同僚等)が被害にあっていく。その原因を探っていくストーリー。


かなり期待して読んだのだが『鴨と…』のDVDほどではなかった。


ページを読み進めるたびに一連の事件の不可思議さを深めていく物語前半はよかった。しかし謎解きに入っていく後半は正直言って長すぎた。というかダレていたと思う。


とはいえ、世間で言われている(読む人読む人が言っている)読みやすいという意見には同意したい。

近年(もっと前からか)流行っている、動機を重視せず、トリックの奇抜さなんかで押してくる作品(森博嗣の作品とか)と
従来からあった動機を重視する社会派ミステリ(松本清張)の間をとっているような印象。
読みやすさの原因についてをうがった見方をすると

  • 複雑でエキセントリックなトリックや仕掛けといえるほどのものはない
  • 社会派ミステリほどの動機の重厚さがない

ということがいえると思う。


本作の仕上がりがたまたまそうだっただけかもしれないので他の作品に期待したい。


他の感想としては以下の通り

  • システムエンジニアの仕事ぶりについては違和感がなかったのでよく調査・取材していると思った。
  • 作品中に出てきたゴッシュというメールだけが連絡手段の会社は今後現実に出てきそう